列島縦断AMR対策
事例紹介シリーズ

TOP > 列島縦断AMR対策事例紹介シリーズ > 静岡県東部で発生したVREアウトブレイク事例への対応~国立感染症研究所による支援の実際~

 このコーナーでは、薬剤耐性(AMR)対策に関するさまざまな事例をご紹介しています。第29回で取り上げるのは、静岡県東部で発生したVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)アウトブレイク事例における国立感染症研究所の支援の実際です。国の機関として、どのような立場からどのような支援を行ったのか。介入までの経緯や支援の実際などについて、同研究所薬剤耐性研究センター第四室室長の山岸拓也先生にお話を伺いました。

山岸拓也(やまぎしたくや) 氏

山岸拓也(やまぎしたくや) 氏
国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター第四室 室長 FETPファシリテーター
1999年横浜市立大学医学部卒業。2008年3月まで市中病院、大学病院で臨床医として勤務。2008年国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)に入り実地疫学を学んだ後、国立感染症研究所感染症疫学センター、世界保健機関西太平洋地域事務局(WPRO)健康危機管理部などでの勤務を経て、2020年4月より現職。

支援の中心は、実地疫学調査

保健所からの依頼で支援スタート

初めに、アウトブレイク発生時の対応における「国立感染症研究所(以下、「感染研」)」の位置づけと役割について教えてください。

山岸氏 病院でアウトブレイクが起こった場合、まずはその病院内で対応が行われます。発生が一定の基準を超え、自施設だけでは対応が難しいと判断された場合には、地域の保健所に連絡がなされます。通常は保健所が当該病院の支援や監視を行いますが、状況によっては地域の感染対策の専門家も交えて県庁レベルで対応が行われることもあります。さらにこうした対応だけでは難しいケースや、専門家がいない自治体などもあり、その場合は我々のところ(感染研)に依頼が来ます。感染研への依頼は保健所や自治体から入り、FETP(実地疫学専門家養成コース)を運営している応用疫学研究センターが対応しています。

ということは、病院から直接依頼が来るわけではないのですね。

山岸氏 はい。仕組み上、保健所を介さないと感染研は動けません。我々は「保健所の代弁者として、保健所の支援をする」という形をとっています。今回お話しする静岡県東部の事例も、管轄の保健所と県庁から我々に依頼が来て、支援に入ることになりました。
 ちなみにFETPは、感染症の現場対応ができる専門家を養成するための実践型プログラムです。30~50代の医師や自治体職員などが参加し、2年間の研修を受けます。アウトブレイク発生時は、私のような感染研の職員(FETPファシリテーター)とともにFETPの研修生も対応にあたります。

実地疫学調査を行い、対策を提言

どのような支援を行うのですか?

山岸氏 支援の中心は実地疫学調査です。保健所と一緒にアウトブレイクが発生した病院に行き、その病院のICTスタッフなどとチームを組んで、1~2週間かけて調査を行います。そして現状を把握しデータを整理した上で、必要な対策と優先順位を決めて、病院に提言を行います。
 疫学調査というと、研究と混同されることがありますが、その目的や位置づけは研究とは異なります。我々が疫学調査をする目的にはアウトブレイクのコントロールが含まれます。感染の発生状況には偏りがあり、どの病棟のどんな患者に多いか、どんな状況で感染が起こっているかなどを調べ、そこに介入して、最終的にコントロールできることを目指します。調査は将来にわたる予防まで考えて行っています。

その他に感染研が行うアウトブレイク関連の支援はありますか?

山岸氏 感染研では菌株の解析も行っています。ただしFETP室の疫学調査とは、依頼の経路が異なります。例えば、どこかの医療機関でなんらかの耐性菌によるアウトブレイクが発生し、菌株の解析を依頼したい場合、まずは保健所を介して地方衛生研究所に連絡が行きます。そこで対応しきれない場合、感染研の病原体部門に依頼が来ます。同じ事例でも、疫学調査と菌株解析とでは依頼経路が異なり、対応も別々に行われます。

静岡県東部の基幹病院で疫学調査を実施

ここからは、静岡県東部で発生したVREアウトブレイク事例について伺います。まず感染研が関わるまでの経緯を教えてください。

山岸氏 静岡県東部保健所にVRE発生の最初の届出があったのは、2019年です。その後も、管内の複数の医療機関から届出が続きました。私が最初に関わったのは2020年です。同地域では2012年からICN(感染管理認定看護師)連絡会議が開催されており、非公式に相談したいとのことで会議に参加しました。それ以降もVREの発生が続き、2021年に同保健所と静岡県庁より依頼が来たことから、感染研として正式に疫学調査に入りました。

※本事例については、第27回(保健所による感染症対策ネットワーク活動への積極的な関与を支援~「院内感染対策ネットワークと保健所の連携推進事業班」の取り組み~)でも取り上げていますので合わせてご覧ください。

調査はどのように進めたのでしょうか?

山岸氏 静岡県東部にはいくつかの大病院があり、そのすべてで多かれ少なかれVREが流行していました。これらの病院は、それぞれ中小病院やクリニックなどとネットワークを構成し、感染対策上も基幹病院として機能しています。そのためこれら大病院で対策をとれば、何とか発生をコントロールできるのではと考えました。同時に調査に入るのは難しかったので、まず1つの病院に入りました。

調査ではどのようなことがわかりましたか?

山岸氏 感染症例のほとんどの患者は、ADL(日常生活動作)が低く、食事や排泄の介助が必要な方でした。そして感染はおむつ交換などの排泄介助で起きていたことがわかりました。また病院は築40年近い古い建物で、汚物処理をするスペースも手狭でした。さらに蓄尿検査など、尿測定が多く行われていました。感染は1つ1つの処置をしっかり行えば伝播しないものですが、業務に追われ、忙しすぎると手洗いがおざなりになりアウトブレイクにつながります。同院のICTスタッフは非常にしっかりした方々でしたが、病院として横のつながりが弱い点も気になりました。院内の情報共有が十分でなく、診療科や職員によってアウトブレイクに対する危機意識にかなり温度差がみられました。

上層部も巻き込んで対策を提言

調査を終えて、どのような提言を行ったのですか?

山岸氏 この時は同院に1週間入り、最終日に報告会を開催しました。汚物処理に関しては清潔なスペースをしっかり確保すること、尿測定が多すぎるので必要性を見直すことなどを提案しました。不要な尿測定をやめることで看護師の時間を確保し、手洗いにつなげてもらうためです。また院内の情報共有をもう少し図ること、病院長を筆頭に職員全員で感染対策に取り組んでほしいということも伝えました。こうした内容は事前に保健所とすり合わせを行い、保健所の了承のもと、感染研が保健所の代弁者として提言する、という形をとっています。

報告会には病院関係者が多く出席するのでしょうか?

山岸氏 理事長、病院長、事務長、看護部長など上層部の方々にも参加していただき、なるべく多くの関係者に集まってもらうようにしています。我々がICTに出向いて説明するのは簡単ですが、その内容が上層部に伝わらなければ意味がありません。提言内容自体は、ICTスタッフならすでに理解していることがほとんどです。しかしそれを外部から来た我々が上層部にも届く形で伝えることで、病院長が動いてくださることがあるのです。我々が介入する意義の大きなところは、そこにあると考えています。

オンライン会議で経過をフォロー

疫学調査は静岡県東部のすべての大病院で実施したのですか?

山岸氏 いえ、他の病院は自施設の対応で収束した病院が多かったです。もう1つ調査に入った別の病院がありましたが、そこではVRE発生が継続して確認されており、現地疫学調査支援に加え、病院一丸となった対応の重要性と、症例の発生状況に応じた対応の助言をしつつ、経過を見ています。

疫学調査後はどのような支援を行ったのでしょうか?

山岸氏 静岡県東部では感染対策ネットワークの基盤がICN連絡会議に置かれており、我々も定例会議に参加しました。また介入後の経過をフォローするため、実地疫学調査に入った病院はそれぞれオンライン会議を行いました。耐性菌は他の病原体によるアウトブレイクに比べ、対策の効果が出るまで時間がかかります。そのため、オンライン会議は実地疫学調査に入った翌月から毎月開催していました。

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