列島縦断AMR対策
事例紹介シリーズ

TOP > 列島縦断AMR対策事例紹介シリーズ > 静岡県東部で発生したVREアウトブレイク事例への対応~国立感染症研究所による支援の実際~

アウトブレイク対応の鍵は病院全体で取り組むこと

病院長にも出席を求め、広域会議を開催

その後の経過を教えてください。

山岸氏 調査に入った2つの病院を中心に感染対策に取り組むなか、2021年から周辺の病院で散発的にVRE感染症例がみられるようになりました。感染患者の受け入れを拒否する病院も出始めたため、保健所に病院長レベルでの話し合いを提案しました。その結果、保健所の呼びかけで2023年に、周辺3医療圏の全病院の院長にも出席を求め、VRE感染対策連絡会議が開催されました。会議には静岡県庁や静岡県環境衛生科学研究所も参加し、VRE対策の総合的な情報共有と連携が図られました。

病院長まで巻き込んだ会議は、あまり聞かない気がします。

山岸氏 会議は保健所のイニシアチブで開催されたのですが、地方の1保健所が病院長に、しかも管轄をまたいで参加を呼びかけたケースは、私の知る限り本事例だけです。保健所の熱心な取り組みにより、会議では病院間の情報共有について合意を取りつけることができました。現在では、患者が転院する際は耐性菌に関する情報を申し送ることが定着していると聞いています。

静岡県独自の目標を設定

疫学調査については、2病院で1回ずつ行われたのでしょうか?

山岸氏 通常1回調査に入って収束となることが多いですが、うち1つの病院は再度症例数の増加を認め、2回目の調査に入りました。この時は病院長自ら看護師にヒアリングを行って状況を把握し、院内全体に号令をかけて感染対策に取り組んでくださいました。その結果、流行は数か月で収まりました。

耐性菌のコントロールは時間がかかるとのことでしたが、今回の事例もやはりそうでしたか?

山岸氏 なかなか収束まで至りませんでした。そうなると職員のモチベーションも下がってくるため、定例のICT連絡会議では「国のAMRアクションプランに倣って地域の目標を作ってはどうか?」という話が出ていました。そこで保健所や県庁とも話し合い、静岡県の目標を作ることになりました。それが「静岡県東部地域で2027年までに年間VRE感染症患者をゼロにする」というものです。2024年の連絡会議で、各病院長も出席するなか設定されました。

現在の状況を教えてください。

山岸氏 当該病院では感染はある程度コントロールできていて、いい方向に向かっています。目安として「新規陽性が3か月出なければ収束」と考えており、2025年秋の時点で流行がいったん収まったため、感染研は病院の会議にはもう参加していません。先ほどお話した「地域でVRE感染症患者ゼロ」という目標を達成するにはもう少し頑張る必要がありますが、国として我々の出番は終わりつつあると感じています。
 今回の事例でよかったのは、静岡県東部保健所がイニシアチブを取り、会議の調整から参加者のアレンジまで常に前向きに、地域のことを考えてマネジメントしていたことです。あとは地域で頑張ってほしいですし、頑張っていける土台もあるので、軌道に乗っていくのではないかと考えています。

第三者だからこそ見えること

これまでさまざまな事例に関わってきて、第三者の立場から感じることは何でしょうか?

山岸氏 院内でアウトブレイクが起きても、自分の問題と思っていない人が多いと感じます。しかしそのような考え方こそが、アウトブレイクを長引かせるいちばんの理由なのです。また日本人は概して自分たちで何とかしようという意識が強く、応援を求めることを良しとしない傾向にあります。しかし、自分たちだけで手に負えないと思ったら、助けを求めることも大切です。今回の事例では、複数の病院が助けを求めてくれたので保健所が動けましたし、我々も入ることができました。

「自分の問題と考えられるか」は大切ですね。

山岸氏 一般的に、大きなアウトブレイクを起こす病院には特徴があります。まずICTの立場が低く、各診療科に意見が言えない場合、また特定の診療科の医師の意向が強く調整が難しい場合が挙げられます。ICT内で意見が異なる場合も流行が長引きやすいです。何かしら人間関係の問題がある時にアウトブレイクは大きくなりやすいと感じます。
 つまり、「一体感のない病院」は事態を収拾しにくく、逆に風通しのいい病院はたとえ危険なアウトブレイクが起こってもスムーズに対処できることが多いです。だからこそ提言では、「病院一丸となってやりましょう」ということを特に伝えています。

VRE対策の基本は手指衛生

VREはどのようにして感染するのですか?

山岸氏 VREは接触感染で広がります。環境に菌がつくことが多いですが、水回りにはあまりおらず、スポンジやシンクなどからよく検出される緑膿菌や大腸菌とは異なります。また多剤耐性緑膿菌では医療デバイスとの関連性が指摘されていますが、VREは医療デバイスの伝播関与もさることながら、普通に手から手に感染します。

そうすると、対策の基本は手指衛生でしょうか?

山岸氏 VREは環境に多くみられ間接的な伝播もあるので、環境の整備と手洗いが基本となります。特に手指衛生は大切です。ちなみに、コロナ禍で手を洗う習慣が普及しましたが、手袋をつけっぱなしまたは二重手袋で手洗いしない、手袋の上からいい加減に消毒している医療従事者が目につきました。それだと自分の手指は守れても、患者から患者に病気を移さないための手指衛生はできていないことになります。あくまで一処置ごとに手袋を交換し、手洗いや手指消毒をすることが基本になります。
 実際、VREを含め、耐性菌の発生状況はコロナ禍に関係なく推移しており(図)、耐性菌対策に関しては、コロナ禍は良くも悪くも影響しなかったと考えています。

図 VRE感染症の届出年次推移(感染症発生動向調査における年別報告数、1999~2025年)

国立感染症研究所 感染症発生動向調査年報
同 感染症発生動向調査週報2025年第52週

図 VRE感染症の届出年次推移(感染症発生動向調査における年別報告数、1999~2025年)

地域差が大きいVRE発生状況

国内外のVREの発生状況はどうなっていますか?

山岸氏 国内外とも地域差が大きいです。世界的に見ると、米国や韓国で大流行している一方でヨーロッパ諸国、特に北欧はゼロに近いです。日本も静岡や広島、大分など一部の地域で流行している一方で、東北や山陰などではほとんど出ていません。

なぜそんなに地域差があるのでしょうか?

山岸氏 それがまだよくわかっていないのです。静岡県も2018年まではゼロだったのが、2019年に大規模なアウトブレイクが起こってから定着してしまいました。その一方で、いったん流行した後、定着せずに収束する県もあり、何が原因で広がるのか不明です。不思議というか、ユニークな立ち位置にある耐性菌だと思います。

有効な治療選択肢は極めて乏しい

感染対策に関連して、VREならではの難しさなどはありますか?

山岸氏 VREの病原性は弱く、免疫低下患者で日和見感染症を起こすケースがほとんどで、感染を起こす頻度も低いです。そのため医療者によっては危機意識が薄く、アウトブレイクが起きても積極的に対策を講じない病院もあります。しかしこうした患者は、自力で菌を排除することができない上に、バンコマイシン以外に有効な抗菌薬の選択肢も極めて乏しく、自然治癒を待つ他ありません。血流感染を起こした時などは、非常に厄介です。

VREに関しては、どこまで対策をとることが望ましいのでしょうか?

山岸氏 疫学的には、日本国内のVREはコントロール(封じ込め)できるかどうかの瀬戸際にあるといえます。広がっていい耐性菌というのはなく、個人的には1例でも見つかったら対応した方がいいと考えています。今回の事例では、幸いVREによる死亡例は出ませんでした。しかし治療選択肢がない状況で感染症を起こすことに変わりはなく、治療に難渋した医師もいたと考えられます。もともと重篤な疾患を抱えている患者さんが感染すれば、有効な治療薬がない状況では致命的な状態になりかねません。そのようなハイリスクな患者もいることを理解し、特に血液内科がある病院は深刻にとらえた方がよいと思います。

最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

山岸氏 VREのアウトブレイクは、病院が一丸となって対策に取り組むことでコントロール可能です。そしてそれは平時からできることです。ふだんから院内で職員同士が交流できる場を設けるなど、病院全体で動く文化を作ってもらえればと思います。
 そしてもしアウトブレイクが起きたら、保健所に助けを求めることも考えていただきたい。外部の支援をうまく利用して、「国から言われたから仕方ないですよね」と、いい意味で外圧を活用してもらえればと思います。
 私が所属する国立健康危機管理研究機構(JIHS)には、保健所を通じて感染研が支援するルートの他に、医療機関が感染症対策について直接相談できる窓口『IRS(感染症対策支援)』もあります。
 VREのような厄介な耐性菌の問題は、1つの病院だけで抱え込めるものではありません。こうした外部のリソースを早い段階で活用し、サポートを受けること。その一歩が、感染症の拡がりを防ぎ、地域全体の患者さんを守ることにつながります。

(このインタビューは2025年12月22日に行いました)