列島縦断AMR対策
事例紹介シリーズ

TOP > 列島縦断AMR対策事例紹介シリーズ > 感染対策向上加算3施設が挑む「J-SIPHE」のデータ活用と地域連携のリアル

 このコーナーでは、薬剤耐性(AMR)対策のさまざまな話題をご紹介しています。第30回で取り上げるのは生田病院(滋賀県)の取り組みです。生田病院は、感染対策向上加算3施設として「J-SIPHE(感染対策連携共通プラットフォーム)」を活用しています。
 J-SIPHEの活用はまさにゼロからのスタートだったと言う臨床検査技師の栗田真澄先生。今回はそんな栗田先生が、2025年11月にJ-SIPHEセミナーで話された内容を記事として再構成。導入の経緯から活用プロセス、成果までを対話形式でお届けします。

栗田真澄(くりたますみ)氏

栗田真澄(くりたますみ)氏
医療法人社団 美松会 生田病院 臨床検査技師
1985年専門学校卒業後、臨床検査技師免許取得。一般企業、病院勤務を経て2009年より現職。2012年より感染対策業務に携わる。2026年4月より医療技術部臨床検査課長。

ゼロからのスタート、登録から地域連携会議での初発表まで

4名の「感染対策向上加算3チーム」で「J-SIPHE(ジェイサイフ)」に初登録

初めに、生田病院の概要と感染対策の組織体制について教えて下さい。

栗田氏 当院は、滋賀県湖南市にある、一般病床99床、療養病棟50床の計149床に、介護医療院50床を併設した地域密着型の病院です。内科や外科を中心に、透析医療や健康診断などにも幅広く対応しています。感染対策向上加算算定は「3」になります。
 感染対策に関わる人員は、院内感染対策委員会が9名、各部署の責任者などを含めたICT(感染制御チーム)が20名弱という体制です。その中で実働部隊となるメンバーは、臨床検査技師の私のほかに、医師、看護師、薬剤師の計4名で活動しています。私自身、日々の現場業務が大半を占めるなか、限られたリソースかつ、J-SIPHE初心者のチームですが、加算1施設と連携しながら院内感染対策の推進に取り組んでいます。

「J-SIPHE」に参加したきっかけは?

栗田氏 私が初めてJ-SIPHEという言葉を耳にしたのは、3年ほど前の地域連携会議でした。配布された資料を見ながら、「これ、何て読むの?」「『ジェイサイフ』って読むらしいよ」といった会話をスタッフ間で交わすところから始まった、まさに知識も経験も全くない状態からのスタートでした。
 会議の席では、加算1や加算2の施設の方々が「ベンチマークがどう」「全国レベルでの位置がどう」といった話をされていましたが、「一体何のこと?」と遠巻きに聞いているのが精一杯でした。ですが、加算1施設の先生から「これに参加しないと、実質的に連携が取れないと考えてください」とのお話があり、「J-SIPHE」は加算3の条件を維持するために避けては通れないステップだと認識しました。自施設に戻ってメンバーと話し合い、「やれるかどうかは別として、まずは登録しないことには始まらない。ひとまず登録してみよう」と、半ば飛び込むような形で参加を決めました。

手探りのデータ入力の先に待っていた、多角的なフィードバック

感染対策向上加算3施設がJ-SIPHEに参加する場合、どのような手順を踏むのでしょうか? また、登録はスムーズにいきましたか?

栗田氏 連携している加算1施設に自施設の医療機関コードを伝え、その情報を基に加算1施設側でシステムへの招待手続きを行ってもらうことで登録が進みました。登録自体はスムーズでしたが、少し戸惑ったのはその先のデータ入力でした。
 J-SIPHEにはいくつかの集計項目があります。連携している加算1施設からは、「病院の規模やスタッフの体制といった施設情報を登録するだけでなく、毎月の分析の土台となる患者数などの基本情報、AMU情報※1、ICT関連情報、微生物・耐性菌情報の項目は最低限入力してください」とリクエストを受けました。
 最初は画面の見方すら分からず、マニュアルと睨めっこしながらの作業でした。数値を入力してもエラーメッセージが出たり、登録したはずなのに「!」マークが付いたままだったり。チャットボットに助けられながら、なんとか入力を続けました。

データを入力することで、具体的にどのようなフィードバックが得られるのですか?

栗田氏 最大のメリットは、入力を進めるだけで専門的な指標やグラフが「自動で生成される」ことです。例えば「基本情報」として在院・入院・退院の患者数を入力すれば、システムが「平均在院日数」を自動で算出してくれます。これらは後に手指消毒薬の使用量などを分析する際の重要な「分母」になるデータです。
 AMU情報については、「EF対応AMUアプリ(J-SIPHE用)」を使って登録しました。このアプリは、病院の事務部門に依頼してレセプトコンピュータ等から出力してもらうEF統合ファイル※2を読み込ませることで、抗菌薬の使用量を自動で抽出し、J-SIPHEにアップロードできる形式に変換してくれるツールです。これを使えば、膨大な薬剤データから手作業で抗菌薬だけを抜き出す必要がなくなり、入力の手間が劇的に軽減されます。J-SIPHEはそうして登録した情報をもとに、薬剤ごとの使用推移などを多種多様なグラフとしてフィードバックしてくれます。

手指消毒薬の使用量や耐性菌の情報も、入力すれば自動で指標化されるのでしょうか?

栗田氏 はい。手指消毒薬の使用量は「ICT関連情報」として病棟別の使用量を入力すれば、事前に入力した基本情報と連動して、「1患者日あたりの使用量」が自動算出される仕組みです。
 微生物・耐性菌情報については入力に少し手間がかかりました。当院は「JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス)」に未加入であるため、J-SIPHEに直接データを入力する必要があったからです※3。システム上の表にある主要な菌について、総数か新規か、あるいは院内発生なのか院外発生なのかを一つひとつカウントして区別するのは少し根気が要る作業でした。でも、そうして苦労して入力した情報がJ-SIPHEのサーバーで集計され、還元情報※4として見やすいグラフとなって出てきたのを見たときは驚きました。

脚注
※1 AMU(Antimicrobial Use):抗菌薬の使用量の指標。J-SIPHEは、薬剤の種類ごとに「1日あたりどの程度使われたか」を病院の規模(在院患者延数など)に合わせて補正し、AUD(抗菌薬使用密度)などの指標として算出してくれる。
※2 EF統合ファイル:Eファイル(診療明細情報)とFファイル(行為明細情報)の2つを統合した出来高レセプト情報に相当する内容を持つファイル。
※3 J-SIPHEとJANISはシステム間でデータ連携しているため、JANIS登録施設ではJ-SIPHEページから入力しなくても自動的にデータが算出される。
※4 J-SIPHEに登録されたデータは項目ごとに自動的にグラフ化され、J-SIPHEの還元情報画面からダウンロードできる。

J-SIPHEデータを活用した、地域連携カンファレンスでの初報告

J-SIPHEに登録後、ICTチームではどのような変化がありましたか?

栗田氏 自施設の状況を全国水準と比較したり、グループ内の他施設の状況と見比べたりすることが可能になり、「加算1の施設とはここが違うな」などと客観的な立ち位置を把握できるようになりました。
 そしてついに当院の状況も地域連携カンファレンスで発表することになりました。その際は、加算1施設の先生方から、どのグラフを使うべきかなど適切なアドバイスをいただきました。その助言をもとに、AMU情報、ICT関連情報、微生物・耐性菌関連情報の3つの軸で報告を行いました。

具体的には、どのようなことをカンファレンスで発表したのですか?

栗田氏 AMU情報については、J-SIPHEの還元情報として提供される比較グラフを活用し、自院と連携施設の抗菌薬使用状況を対比させてその推移や傾向をまとめ、報告しました。また、ICT関連情報は、加算1の施設がグループ内の各施設と比較できるようあらかじめグラフを用意してくださったため、そのグラフをもとに当院の傾向を報告しました(図1)。

図1 「手指消毒薬使用量(ICT関連情報)」の施設間比較グラフ
A:加算2施設 B・C:加算1施設 D:生田病院(加算3施設)
図1 「手指消毒薬使用量(ICT関連情報)」の施設間比較グラフ

 微生物・耐性菌関連は、耐性菌の検出率推移やCDI(クロストリディオイデス・ディフィシル感染症)の発生率に加え、血液培養の結果も報告対象とされ、こちらも加算1の施設でグラフを準備してくださったため、そのグラフを使用して当院の傾向を報告しました。
 具体的には、耐性菌は「全体」(図2)「MRSA」(図3)「第3世代セファロスポリン耐性大腸菌(ESBL産生菌など)」といった主要な菌種だけでなく、連携グループ内の各施設でその時々に問題となっている菌をスポット的に抽出した比較グラフなどです。血液培養については、「複数セット提出率」「汚染セット率」も報告項目に含まれていました。

図2 「耐性菌検出率(微生物・耐性菌関連情報)」の施設間比較グラフ(耐性菌全体)
A:加算2施設 B・C:加算1施設 D:生田病院(加算3施設)
図2 「耐性菌検出率(微生物・耐性菌関連情報)」の施設間比較グラフ(耐性菌全体)
図3 耐性菌検出率(微生物・耐性菌関連情報)の施設間比較グラフ(MRSA)
A:加算2施設 B・C:加算1施設 D:生田病院(加算3施設)
図3 耐性菌検出率(微生物・耐性菌関連情報)の施設間比較グラフ(MRSA)

J-SIPHEのデータを用いた初めての報告を終え、どのような手応えを感じましたか?

栗田氏 「まずはデータを形にできた」という安堵感はありましたが、正直なところ、この時点ではまだ「傾向を掴む」までには至っていませんでした。当院のような加算3の小規模施設は大病院に比べて検体の絶対数がどうしても少ないため、耐性菌が1、2件検出されただけでグラフ上の数値が大きく跳ね上がってしまいます。このときは「他施設と比べて、なんとなくうちはこんな立ち位置なのかな」と、客観的なデータを俯瞰して眺めているような、手探りの段階でした。

次は...データが突きつけた「汚染率100%」の衝撃――不名誉な数字を改善の原動力に ▶