列島縦断AMR対策
事例紹介シリーズ

TOP > 列島縦断AMR対策事例紹介シリーズ > 専門医不在の中規模病院で、専任薬剤師がAST活動を主導~病棟薬剤師との連携、J-SIPHEの活用も~

 このコーナーでは、薬剤師によるAST(Antimicrobial Stewardship Team:抗菌薬適正使用支援チーム)活動の事例を紹介します。今回取り上げるのは、枚方公済病院(大阪府)の取り組みです。同院では、感染症専門医やICD(インフェクションコントロールドクター)がいない環境のなか、AST専任の薬剤師が中心となって抗菌薬適正使用を支援してきました。取り組みの実際や活動を進めていくうえでの考え方などについて、薬剤科の沢田佳祐先生にお話を伺いました。

沢田佳祐(さわだけいすけ)氏

沢田佳祐(さわだけいすけ)氏
枚方公済病院薬剤科(感染制御専門薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師) 2016年3月立命館大学薬学部卒業、同年京都大学医学部附属病院薬剤部を経て、2017年4月より現職。同院勤務の傍ら、京都薬科大学大学院で研究活動を行い、2026年3月に薬学博士を取得。同年6月からは同大学臨床薬剤疫学分野にて研究員として研究を続けている。

病院プロフィール

 枚方公済病院(大阪府枚方市)
大阪府北東部に位置する同院は、病床数313床の中規模病院。1943年の開設以来、枚方市東部地域の中核病院として診療体制を整備、救急医療の充実や地域医療機関との連携強化にも取り組み、地域住民の健康を支えている。

DATA(2026年現在)
  • 313床、30診療科
  • 感染対策向上加算1施設
  • 院内に細菌検査室あり。2025年には質量分析装置を導入、翌日の細菌同定が可能に
  • 感染対策関連の認定:看護師2名、薬剤師3名
  • 薬剤科:薬剤師18名(常勤17名、非常勤1名)、薬剤助手4名、SPD(物品管理)スタッフ2名
薬剤科の特徴
  • 全8病棟に11名の病棟薬剤師(病棟メイン8名・病棟サブ3名)を配置、AST活動をサポート
  • 全病棟薬剤師が抗微生物薬のTDM(薬物血中濃度モニタリング)解析に対応
AST立ち上げの経緯

手探りで始まったAST活動

 当院では、2018年度診療報酬改定で「抗菌薬適正使用支援加算」が新設されたのを機に、同年4月にASTを立ち上げ、薬剤師主導によるAST活動を始めました。メンバーは医師・看護師・臨床検査技師・薬剤師で、私以外は2012年に開始したICT(感染制御チーム)活動との兼任でした。
 私は2017年に当院に入職し、循環器病棟を担当していました。それが突然、ASTを主導する専任の薬剤師(以下、AST薬剤師)に選ばれ、活動に取り組むことになったのです。当時は卒後3年目で、感染症を専門的に学んだ経験はありませんでした。また、院内に感染症専門医やICDはおらず、文字通り手探りでのスタートでした。

主な取り組み

専任の薬剤師がAST活動を主導

活動の柱はASTカンファレンス

 ASTの主な活動は、週1回・2時間、全メンバーが集まって行うASTカンファレンスです。AST薬剤師はカンファレンスに先立って、介入対象患者の抽出と患者サマリーの作成を行います。カンファレンスの司会進行、終了後の主治医や病棟薬剤師へのフィードバック、議事録の作成もAST薬剤師の担当です。基本的にほかのASTメンバーは、当日カンファレンスに参加すればよい運用にしています(図1)。
 介入対象患者は毎回20~25症例で、サマリーは患者ごとに作成します。その際は各種検査値などの基本情報に加え、必要と思われる介入内容なども記載しています。作成には時間がかかりますが、限られた時間内で効率よく議論を進めるには、事前の情報整理が欠かせません。
 カンファレンスで議論した内容は、AST薬剤師がその場で電子カルテに記載し、主治医にフィードバックしています。何らかのアプローチが必要な場合は、終了後にAST薬剤師が直接医師に連絡するか、病棟薬剤師を介して伝えています。対応に食い違いがないよう、議事録などの関連情報はすべて病棟薬剤師と共有しています。

図1 ASTカンファレンスの日におけるAST薬剤師の活動と患者サマリー 図1 ASTカンファレンスの日におけるAST薬剤師の活動と患者サマリー

図1 ASTカンファレンスの日におけるAST薬剤師の活動と患者サマリー

病棟薬剤師と連携しフォローを継続

 介入対象患者については、カンファレンス日以降も継続的なフォローアップが必要です。こちらは病棟薬剤師が中心となって、その後の経過や追加の検査結果の確認、また医師へのフィードバックなどを行っています(図2)。
 薬剤師によるAST活動として、医師からの抗菌薬治療に関する相談にも随時対応しています。対応を始めて以降、相談件数は増えており、現在は医師からAST薬剤師への相談よりも、医師から病棟薬剤師への相談の方が多くなっています。「複雑な相談はAST薬剤師に、それ以外は病棟薬剤師に」と、医師の側もうまく使い分けてくれているようです(図2)。
 病棟薬剤師との連携の仕方については、ASTカンファレンスの日には、カンファレンス終了後に議事録を共有し、その日に対象として挙がった症例と、ASTからの提案内容を、全症例について伝えています。そのうち重要度の高いものについては、直接口頭でも報告しています。
 カンファレンス以外の日は、 当院では始業時の朝礼に全薬剤師が集まるほか、毎日12時に全病棟薬剤師が集合する「病棟ミーティング」があり情報を共有しています。この場にAST担当薬剤師も出席するため、特別な仕組みを設けなくても、日々リアルタイムに情報をやり取りできる環境になっています。
 「毎日必ず報告してもらう」といったルールを課しているわけではなく、もともと薬剤科にある日常の集まりにAST薬剤師が入り込むことで連携が成立している、という点が当院の特徴です。
 このように、当院のAST活動は、病棟薬剤師との役割分担に支えられている部分が大きいです。ただし病棟薬剤師に完全に任せるのではなく、AST薬剤師がその都度内容を確認したうえで対応をお願いするようにしています。

図2 ASTカンファレンスと相談対応

図2 ASTカンファレンスと相談対応

取り組みによる成果

シンプルな介入でも続けることで成果につながる

在院・治療日数が短縮し、抗菌薬治療費が減少

 注射抗菌薬治療を受けた患者延べ1.1万例(AST前5,419例/AST後5,634例)を対象に、AST活動開始前後2年間を比較した評価(2016~2017年度 vs 2018~2019年度)1)では、死亡率や再入院率を悪化させることなく、在院日数および治療日数が短縮していました。また1人あたりの抗菌薬治療費は約30%減少しました。これは年間約1500万円の削減に相当します(図3)。短縮日数は約1日とわずかですが、対象患者全体でみれば影響は大きいと考えています。
 またAST活動開始後2年間の介入内容をみると、最も多かったのは「治療期間の適正化」、次が「検査の追加」で、全体の8割近くを占めていました。一方、「抗菌薬の変更」と「投与量の調節」は約2割でした(図4)。

図3 AST活動開始前後の変化(2016~2017年度 vs 2018~2019年度)

図3 AST活動開始前後の変化(2016~2017年度 vs 2018~2019年度)

図4 ASTによる介入内容(2018~2019年度)

図4 ASTによる介入内容(2018~2019年度)

「治療期間の適正化」が有効なアプローチに

 抗菌薬の処方傾向は、大病院と中小病院で異なります2)。重症例も多い大病院では広域抗菌薬が選択されやすく、介入内容も抗菌薬変更やデエスカレーションに寄る傾向があります。一方、中小病院では広域抗菌薬への支出がもともと少なく、その代わりに投与期間は長くなる傾向がみられます。また当院の場合、AST活動開始当初は、細菌検査なしで抗菌薬治療が行われているケースがかなりありました。
 感染症専門医やICDのいない当院では、原因菌がわからない症例に対する抗菌薬変更の提案は容易ではありません。「治療期間の適正化」は、最初からそうしようと意図していたわけではありませんが、医師の判断を早めるきっかけとなり、結果的に治療費の削減につながりました。当院のような中小病院では、こうしたシンプルな介入を地道に続けることが、有効なアプローチになりうると考えています。

活動の進め方・考え方

中小病院で実践可能なAST活動を模索

ガイダンスを指針にゼロからスタート

 AST活動は文字通りゼロからのスタートでした。感染症の勉強はAST薬剤師に選ばれてから始め、「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス(2017年版)」3)はバイブルとしてすり切れるぐらい読み込みました。日本感染症学会/日本化学療法学会の「感染症治療ガイド」4)も隅々まで読み、さまざまな勉強会にも参加しました。加えてグラム染色などについては、経験豊富な臨床検査技師に一から教えてもらいました。
 一方で、当時のガイダンスは中小病院が取り入れるにはハードルが高いとも感じていました。そのため、指針を大切にしながらも、実際の介入は「目の前の患者さんが少しでも良くなれば」という気持ちで取り組んでいました。

試行錯誤を重ね、現在の形に

 AST活動は、試行錯誤を重ねることで少しずつ形になっていきました。カンファレンスの運営も、最初から「こうしよう」と決めていたわけではありません。カンファレンスをくり返すなかで知識や経験を培い、今のやり方ができあがっていきました。例えば、患者サマリーの評価項目は「この項目は医師が必ず確認するな」「こういう患者ではこの項目をチェックするな」といった気づきの積み重ねで、内容が固まっていきました。
 カンファレンスでは、「自分だけで情報を完結させない」「自分の考えをそのまま進める会にしない」ことを心がけました。患者サマリーを作る段階で「この症例ではどう話を進めていくか」を考え、デバイス関連は看護師、細菌検査は臨床検査技師、画像や治療は医師といったように、それぞれ専門の職種に話を振り、意見を聞くようにしました。
 主治医への提案も、「こうしてほしい」と最初から答えを決めていたわけではありません。「情報を共有しながら、一緒に対応を考えていく」という姿勢で話をしていました。そのおかげか、医師から強く抵抗された経験は特になかったです。卒後3年目という若輩の立場からのスタートで、「AST専任だから責任重大」という意識すらありませんでした。だからこそ、こうした進め方が自然にできたのかもしれません。

AST活動を支える病棟薬剤師との連携

 AST活動で大変だったのは、「必要な患者さんに対して、十分に介入するための時間をどう確保するか」ということでした。例えば、介入対象患者の継続的なフォローアップは重要ですが、AST薬剤師一人ではとうてい対応しきれません。
 そのため、AST活動開始当初から「病棟薬剤師と役割分担し、頼れるところは素直に頼ろう」と考えて、取り組みを進めてきました。立場上は自分が主導者ですが、「各病棟にAST支部があり、病棟薬剤師がいてくれる」という感覚です。お互い感染症に詳しいわけではなかったので、自分が学んだことは病棟薬剤師にも共有し、一緒に勉強していきました。これは、新人薬剤師を対象とした院内勉強会「つくろう、僕らのコロニー(通称:僕コロ)」という形で結実しており、1回あたり10~15分、全42回で細菌から、抗菌薬、治療について学べる仕組みができています。
 当院の病棟薬剤師が記載した電子カルテ記録を分析した研究5)では、AST開始前に比べ「抗菌薬」を含む記録の割合が3.1%から7.8%へと倍増したほか、検査値のモニタリングや感染症の評価など、抗菌薬治療により踏み込んだ内容の記載が増えていました。病棟薬剤師がAST活動に関わることで、業務内容にも一定の変化が生じたことが示唆されました。
 当院着任前は大学病院に勤務していましたが、役割分担が非常に進んでいて、若手の自分がAST活動に関わる余地は皆無でした。一方で当院のような中小病院は、薬剤師が介入に関わる機会がたくさんあります。また、ほかの薬剤師とは毎日顔を合わせるので、そこから情報を拾うことができます。薬剤師間の連携が強く、自分から能動的に動かなくても情報交換できるところは、中小病院の強みだと考えています。

そのほかの取り組み

J-SIPHEを活用して課題を見える化

  ゼロからAST活動を進めるにあたり、大いに活用したのがJ-SIPHE(感染対策連携共通プラットフォーム)6)です。さまざまな勉強会に参加する中でその存在を知り、2019年2月に加入しました。J-SIPHEを用いることで、「他施設に比べ、抗緑膿菌薬が長期投与されている」といった当時の当院の課題が、瞬時に把握できました。
 院内利用を目的に始めたJ-SIPHEですが、多施設連携にも活用するようになりました。2022年に国家公務員共済組合連合会グループで「J-SIPHE活用ワーキンググループ」を立ち上げ、抗菌薬使用動向や微生物・耐性菌情報を共有しています。
 このワーキンググループの活動から生まれたのが、共済グループ15施設を対象とした研究です。J-SIPHEのグループ機能を使い、参加施設のデータをまとめて抽出。抗菌薬の使用量や使用日数を、背景の異なる施設間で横断的に評価し、その結果を論文にまとめ発表しました7)。
 J-SIPHE加入当初、私が気にしていたのは、抗緑膿菌薬を他施設より長く使っている点でした。院内の推移を追ううえでは、今もこの視点を大切にしています。ただ、多施設での比較を経て、抗緑膿菌作用をもつ4系統をどれだけ偏りなく使えているか、すなわち「系統間のバランス」という新たな着眼点に気づくことができました。

今後の展望

成果を数値で示し続ける重要性

 病棟薬剤師の協力が十分得られているとはいえ、中心となるAST薬剤師が複数必要なことは、以前から感じていました。幸い、2024年に後輩薬剤師をAST薬剤師として迎えることができ、現在はほぼ業務を引き継いでいます。また最近、集中治療室で診療にあたっている若手医師が、新しくASTメンバーになりました。メンバーによってチームのカラーが変わり、介入の雰囲気も変わることを実感しています。
 AST活動を始めた当初、「ガイダンスに書いてあることをきちんと守ろう」と思ったことは、大きな指針になりました。「アウトカム評価を常に行う」もその1つです。実際、薬剤費削減という成果を病院運営側に示せたことで薬剤師の増員につながり、論文という形で残すこともできました。人員が十分とはいえない中小病院では、病院運営側の理解を得ることが欠かせません。必要な患者さんに適切に介入するための人員を割いてもらえるよう、今後も活動の成果を数値で示し続け、運営側にアピールしていきたいと考えています。

(このインタビューは2026年7月13日にオンラインで行いました)

【出典】

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