列島縦断AMR対策
事例紹介シリーズ

TOP > 列島縦断AMR対策事例紹介シリーズ > 薬剤師ならではの強みと視点を要に、チームで抗菌薬適正使用を支援

 このコーナーでは、薬剤師によるAST(Antimicrobial Stewardship Team:抗菌薬適正使用支援チーム)活動の事例を紹介します。第1回で取り上げるのは中津市民病院(大分県)における取り組みです。同院ではAST活動の柱となる業務を薬剤師が担い、チームで抗菌薬の適正使用を支援してきました。取り組みの実際について、薬剤科の上ノ段友里先生にお話を伺いました。

上ノ段 友里(うえのだん ゆり)氏

上ノ段 友里(うえのだん ゆり)氏
中津市立中津市民病院診療部薬剤科主任薬剤師
2003年徳島文理大学薬学部薬学科卒業、同年大分県薬剤師会会営OPA薬局へ入職。2007年より中津市民病院薬剤科に勤務、2016年からは同科の主任薬剤師を務める。感染制御認定薬剤師および抗菌化学療法認定薬剤師の資格を保有。

病院プロフィール

中津市立中津市民病院(大分県中津市)
大分県北部に位置する同院は、福岡県東部(京築地域)を含む24万人医療圏唯一の中核病院。2000年の開設以降、病床数250床の中規模病院ながら、救急医療・がん診療・周産期医療など幅広い分野で診療機能を強化し、地域の医療ニーズに応えている。

DATA(2026年現在)
  • 250床、28診療科
  • 感染対策向上加算1施設
  • 24時間対応の細菌検査室を備え、培養結果がリアルタイムにわかる環境を整備
  • 感染対策関連の認定:看護師3名、薬剤師1名
  • 薬剤科:薬剤師14名(うち非常勤2名)、事務5名
薬剤科の特徴
  • 女性の割合が高く、時短や育休取得中の男女スタッフも多い
  • 事務スタッフを雇用し、調剤事務や書類関連の整備などをタスクシフト
  • SPD(院内物流管理システム)にて在庫管理・薬品発注を委託

立ち上げまでの経緯

抗菌薬適正使用推進は薬剤師の業務

 当院では2007年に感染対策委員会を立ち上げ、翌2008年からICT(感染症対策チーム)活動を開始しました。AST活動は2017年から本格的に取り組むようになり、2018年にはICTからASTを切り離し、業務を大きく展開してきました。
 私は2007年当初からのメンバーです。もともと保険薬局に勤務していましたが、学会で感染制御に関するシンポジウムを聞き、女性薬剤師も精力的に活動していることを知って、病院への転職と認定薬剤師の資格の取得を目指すようになりました。当院にはICTへの参加を希望して入職し、チームには同期の医師や看護師をはじめ、やる気のあるメンバーが揃っていました。 毎週のカンファレンス後、細菌検査室で医師から感染症や抗菌薬の指導を受け、臨床検査技師からはグラム染色や細菌培養結果を見せてもらいました。そこで感染症の基礎を叩き込まれたことが、今につながっています。
 中小病院である当院は横のつながりが強く、「薬のことは薬剤師に任せるのが当たり前」という風土がもともとありました。抗菌薬についても何か問題があれば必ず意見を聞かれ、その流れでAST活動にも薬剤師が主体的に関わってきました。現在、抗菌薬適正使用に関してはマニュアル作成も含め、薬剤師が事務局を担当しています。


主な取り組み

週2回のAST活動で対象患者に介入

適正使用に関する助言を薬剤師が事前記載

 現在、ASTのメンバーは医師1名、看護師2名、薬剤師2名、臨床検査技師3名の計8名です。活動日は週2回で、火曜日は主にASTカンファレンス、木曜日はICT回診とAST回診・カンファレンスを行っています。ASTが介入する対象となるのは、当院で届出制または許可制としている特定抗菌薬使用患者、耐性菌検出患者、血液培養陽性患者、SSI(手術部位感染)患者です。そのほとんどが入院患者ですが、外来でも耐性菌が検出された患者などは対象に含まれます。 介入患者のリストは、事前に薬剤師が作成しています。またリストに基づいて、抗菌薬適正使用に関する助言を行うのも薬剤師の業務のひとつです。助言はAST回診・カンファレンスに先立って、電子カルテ内のAST回診記録に記載しています。 介入患者のリストは毎回50件前後あります。そのすべてでカルテを開き、診療記録や検査結果も確認したうえで、耐性菌の検出状況などをふまえ、抗菌薬変更や推奨処方例、細菌培養や追加検査などを処方医に提案しています。その際は、肝・腎機能に応じた投与量や投与回数、点滴時間、経口薬へのスイッチングや中止時期、さらには感染予防対策なども記載しています。 抗菌薬以外の併用薬もチェックし、誤嚥リスクの高い薬剤は変更や中止を提案したり、ポリファーマシーに言及することもあります。これらの助言は処方医の電子カルテ上にポップアップで表示される仕組みになっていますが、急を要する場合はその場で医師に電話することもあります。

※同院における届出制抗菌薬:第4世代セフェム系、キノロン系、カルバペネム系、ピペラシリン/タゾバクタム、抗緑膿菌活性を持つ薬(ピペラシリン、セフタジジム)
許可制抗菌薬:抗MRSA薬、タゾバクタム/セフトロザン、コリスチン

医師からの治療コンサルトも薬剤師が対応

 当院にはICDの資格を持つ医師(AST専任ではない)やAST専任医師はいますが、感染症専門医はいません。そのため各科の医師から随時入る治療コンサルトも、薬剤師が直接受けています。医師からの相談は以前から受けていましたが、AST活動を本格的に始めたタイミングで薬剤師が窓口になることを院内で周知し、抗菌薬適正使用マニュアルにもその旨を明記しました。
 抗菌薬適正使用の助言も治療コンサルトも、最終的に確定するのは医師です。とはいえ、薬剤師が提案することに伴うリスクや怖さは常に意識しています。そのため患者さんの状態は、退院するまで毎日確認しています。
 こうした情報はすべて電子カルテ内の「チーム医療」の項目にまとめ、チームで共有しています。薬剤師が介入した患者さんについても必ずAST回診に上げ、抗菌薬治療の妥当性を医師も含めて確認するようにしています。


過去の問題点と対応

業務見直しや分担を工夫し、AST活動を推進

 AST活動を進める過程では、いかに人員を確保するか、業務をどう分担するかという問題もありました。その一例が、先に紹介したAST回診の記録です。介入患者のリスト作成は、調剤業務で処方箋を最初に見る立場にある薬剤師が以前から担当していました。一方、AST回診の内容は、当初、AST専任医師が回診中にカルテに記載していました。医師は薬剤師が作成した回診リストに基づいて、カルテ等で検査値やCT検査結果を見ながら患者の状態を把握(薬の使用歴も含め)し、カルテに抗菌薬等の提言記載をしていたため、1回の回診に2~3時間以上かかっていました。その分、医師の負担は大きく、17時以降の時間外勤務にずれ込むことが日常茶飯事になっていました。
 そこで、専門的な知識を持つ薬剤師が、ASTの回診リストを作成する段階で、検査結果等を見て抗菌薬適正使用に関する助言も事前に記載する方式に変更しました。
 また、ちょうどこの頃、薬剤師業務を一部外部委託することになり、平日日勤帯の人員に余裕ができたため、AST活動日は担当薬剤師が当該業務に専念できるよう、薬剤科内で業務を調整しました。その結果、AST回診は1時間で終えられるようになりました。
 他方、薬剤師は別に兼任している業務もあったため、アンチバイオグラムの作成は、臨床検査技師が担当することをチームで話し合って決めました。このように、医師の働き方改革や他職種の活用(タスクシフト)に早くから取り組み、人員確保や業務分担を図ってきたことも、当院におけるAST活動の特徴だと思います。


そのほかの取り組み

院内や院外で抗菌薬適正使用を周知・啓発

院内スタッフに向けた啓発や勉強会

 AST活動としてはこのほか、「月刊AST」を作成し、院内における抗菌薬適正使用の周知を図っています。誌面では抗菌薬や消毒薬に関する情報、最新のトピックスなどをASTの薬剤師がまとめ、全スタッフに向けて発信しています。抗菌薬の使用量や感受性率については、院内だけでなくJ-SIPHE(感染対策連携共通プラットフォーム)や当院関連施設などのベンチマークとなるデータも提示しています。また、院内の細菌培養や血液培養提出率は、診療科別のデータも示しながらAMR対策の重要性を啓発しています。
 一方で、学ぶ環境も整備してきました。ICT発足時より、各病棟のリンクナース(専門チームの知識を病棟と外来の現場につなぐ看護師)教育の中に薬剤師が入り、一緒に学習を行ってきました。消毒薬の保管や使い方、抗菌薬の投与順番、点滴速度、配合変化や血中濃度の採血タイミングなど、看護師の“ここが分からない”をテーマに毎月勉強会を開催しました。そのことにより、今ではICTラウンドの際などに看護師が薬剤師に気軽に質問できる環境ができています。

商業施設や公民館でイベントを開催

 一般市民を対象とした啓発活動にも取り組んできました。当院のある中津市は、医療施設が全国平均より少ない地域です。しかし調べてみると、当院と普段から交流のある感染対策加算2の病院が4施設、入院施設のある病院が5施設、その門前薬局を含む保険薬局が30店舗あることがわかりました。
 そこで2018年に、当院のASTと地域の薬剤師たちが協同で活動を行う組織を立ち上げ、市民の皆さんがアクセスしやすい商業施設を選定して市民参加型のAMR対策イベント「考えよう!抗生物質の正しい使い方」を年1回開催することになりました。
 2020年はコロナ禍ということもあり、商業施設でのイベントはできず、公民館で少人数の市民セミナーを開催(2020年以降、計5回)しました。コロナ禍が明けた後はゆめタウン中津で「考えよう!抗生物質の正しい使い方」というイベントを開催しました(写真)。
 こうした啓発活動では、さまざまな人材を巻き込む(コ)、人を呼び込むアイデアである(タ)、活動を行うための資金(カ)という、「3つのネ」に基づいた考え方が必要です。この考え方をベースにしながら、参加者の反応をアンケート調査し、次に同様のイベントを開催する際、より市民に伝わる啓発活動を行えるようこれからも模索していきたいと考えています。
 ASTの院外活動は、院内では上層部も含め好意的に推進されています。これは当院が「市民病院」であることも関係しているように思います。市民の中には、セルフメディケーションの一部を過大解釈して、自己判断で抗菌薬を飲んだり飲まなかったりする人もいます。ASTが外に出て正しい知識の普及啓発をすることは、市の職員としての役割でもあると考えています。

商業施設で開催した市民参加型AMR対策イベントの様子

商業施設で開催した市民参加型AMR対策イベントの様子(2025年11月)


苦労したこと

昼休みに薬剤師が自ら営業へ

 院外活動では医療従事者でない方へのプレゼン方法を一から学び、商業施設や公民館に薬剤師が自ら昼休みに外へ出て営業に行きました。特に一般の方は、耐性菌の問題を伝えてもその脅威がわからず、自分には関係ないと思う方が多いので、AMR臨床リファレンスセンターなどの資料を提示しながら開催する施設の関係者にプレゼンを行って理解していただき、なんとか開催に至りました。耐性菌問題=院内感染というイメージを持つ方もおり、自分が抗菌薬の使い方を誤ることで、体内でできるとは思っていないというところがあります。実際に院外活動を行ってみて、医療関係者がもっと市民に対して訴えていくことが必要だと痛感しました。
 一方、院内でのAST活動については、おそらくどこの施設でも否定的であったり、無関心な方は少なからずいるものかと思います。当院ではAST活動に対して否定的な意見はありませんが、もし否定的なことを言われても、私はあえて知らないふり、気づかないふりをすると思います。これまであまり関わって来なかった方の中にチームに加わって一緒に活動したい雰囲気を感じ取った時は、お誘いすることもあります。一緒に何かを作り上げる喜びを経験すれば、考え方も変わっていきます。


取り組みによる成果・変化

細菌培養および血液培養提出率が増加

 当院での直近5年間のAST介入件数(延べ)は、年間3000~5000件にのぼります。その6~8割で抗菌薬適正使用に関する助言を事前記載しており、また治療コンサルトは年間約500件受けています。介入後の採択率は約90%で、ASTの働きかけがほぼ反映された結果となっています。
 また、医師による「抗菌薬届出患者の細菌培養提出率」は2018年には平均79%だったのが、2021年は平均91%、2025年は平均95%と、年々増加しています(図1)。この成果は、月1回の感染対策委員会でのデータ(病院全体および診療科別の細菌培養提出率など)の見える化を行ってきたことと、月刊ASTで抗菌薬適正使用と細菌培養検査の重要性を情報として提供してきたことが大きいと思います。
 また、感染症が疑われる患者が入院する際は、入院検査として「喀痰・尿・血液培養をセット化」し、電子カルテ上で臨床検査技師にワンクリックオーダーできる環境を整えたことで、医師が原因菌を検索しやすくなりました。現在は電子カルテのシステムが一新されていますが、旧システムで構築した運用の効果で『抗菌薬を処方する前にまず原因菌を検索する』という姿勢が医師の意識の中に定着してきたように感じます。

図1 中津市民病院における細菌培養提出率の推移

図1 中津市民病院における細菌培養提出率の推移


今後の課題と展望

新人薬剤師に細菌検査室での研修を義務づけ

 今後の課題はASTに関与できる薬剤師の育成です。一般的に、人員が限られた医療機関では一人に業務が集中しやすく、その状況を見たほかのスタッフは同じ分野を目指そうと思わなくなりがちです(自分にはそのレベルまで達することができないと思うこともしばしば)。当院では2024年度から、感染制御を目指す薬剤師を話し合いで決め、現在私の後進として1名が週2回のAST活動のうち1日を担当しています。
 また、薬剤師の新人教育の中で細菌検査室での研修を義務づけています。これは土日のオンコール当番(週末に調剤業務を行う)などの日に医師から抗菌薬のコンサルトが入った時、当番の薬剤師がある程度対応できるようにするためです。研修は2019年から行っており、臨床検査技師とつながりができる良いきっかけにもなっています。
 特定抗菌薬の届出書などは薬剤師が確認することもあり、研修を受けていれば、細菌培養結果を読めて治療選択を医師と共に考えることができます。また、病棟業務においても薬剤師がリアルタイムに抗菌薬適正使用を推進できると考えます。
 細菌の同定結果や感受性結果によっては薬剤師が処方内容を見直すこともあるのですが、これは薬剤師が自ら責任を持って治療にあたり、評価を見ていく姿勢につながります。そのほかTDM(薬物血中濃度モニタリング)は、以前はICTの薬剤師が行っていましたが、どの薬剤師もできるよう、教育システムに組み込みました。このような取り組みにより、最近は感染症に興味を持つ薬剤師も増えてきています。


全国の薬剤師に向けて

感染症に関わる薬剤師が求められている

 こと薬に関わる部分では、薬剤師はチーム医療でも要の存在だと思います。入院して薬を使わない患者はほぼいません。それだけに入院は、薬物療法の見直しに薬剤師がアプローチするいい機会になります。抗菌薬治療においても、個々の患者さんの肝・腎機能への影響や併用薬まで含めた観点で薬物療法を提案できるのは、薬剤師ならではの強みです。
 感染症は院内でも院外でも発生します。病院の規模に関係なく、また地域を問わず、感染症に関わる薬剤師は必要とされています。そういう薬剤師が全国にたくさんいることで、患者さん、そして社会への手助けとなると考えています。

(このインタビューは2025年9月29日にオンラインで行いました)

このコーナーの目次へ ▶