列島縦断AMR対策
事例紹介シリーズ

TOP > 列島縦断AMR対策事例紹介シリーズ > 保健所による感染症対策ネットワーク活動への積極的な関与を支援~「院内感染対策ネットワークと保健所の連携推進事業班」の取り組み~

第二の柱「AMR対策を学ぶオンラインセミナー」について

基礎知識を習得し、アウトブレイク対応を話し合う

ここからは、もう1つの活動であるAMR対策公衆衛生セミナーについて伺います。取り組みを始めた経緯を教えて下さい。

近内氏 保健所職員は結核などの感染症対策にはなじみがあるのですが、AMR対策は専門的すぎて、特に異動したての職員には敷居が高く、アウトブレイクの相談があってもどう対応していいかわからない、ということがありました。そこで、講義と演習からなるセミナーを開催して基礎知識を習得し、アウトブレイク対応を話し合う機会を作ることにしました。セミナー参加により、地域でAMR対策に従事する人と顔見知りになったり、他の地域の情報を得ることもできます。

セミナーは「院内感染対策ネットワークと保健所の連携推進事業班」の立ち上げ後に始めたのですか?

近内氏 いえ、その前の事業班で2018年から開催しています。2018・2019年度は対面で開催し、コロナ禍による中断をはさんで2022年度にオンラインセミナーとして再開しました。5人以上のチーム単位で参加を募集し、最初は保健所職員に限定されていましたが、2024年度からは衛生研究所の職員も参加可としました(図3)。現在は講義と演習による約3時間のセミナーを、年1回開催しています。

図3 2024年度のオンライン「AMR対策公衆衛生セミナー」プログラム

図3 2024年度のオンライン「AMR対策公衆衛生セミナー」プログラム

わかりやすいと好評、議論の深まりも

参加者からはどのような反応がありましたか?

近内氏 セミナーはAMR臨床リファレンスセンターと国立感染症研究所の先生方のご協力のもと開催しており、「必要な知識や対応が初心者の自分でもわかりやすかった」などの感想をいただいています。特に演習は、そのつど専門家の先生方からフィードバックをもらえる構成で、「取り組みやすい」と好評でした。また「平時から管内の医療機関と顔が見える関係を作ることの重要性がよくわかった」といったコメントもありました。

手ごたえは感じていますか?

近内氏 そうですね。参加者は2022年度の25都道府県・46チーム・316人から、2024年度は30都道府県・64チーム・386人と、着実に増えています。また演習でのディスカッションの内容が、年度を経るごとに深まっていると感じます。その背景には、質問に対し講師の先生がタイムリーに答えてくれること、衛生研究所も参加可となりお互いの役割を再認識する機会になっていることなどもあると思います。
 各チームの検討内容はレポートにまとめて公開し、年度末には報告書も上げています。これらは全国の保健所が他の地域の取り組みや考え方を知る、いいきっかけになっているようです。実際、セミナーの資料を活用して、地域で独自に演習に取り組む自治体も出てきています。2025年度からは、医療機関も参加可という形で募集する予定です。

公益性を活かし、関係機関の橋渡しをする

その他の取り組みについて教えてください。

近内氏 全国の保健所を対象とした院内感染対策ネットワークに関するアンケート調査を不定期に行っています。直近(2024年度)の調査では、管内に感染対策向上加算1を取得した病院のある保健所のうち、9割以上が「感染対策向上加算カンファレンスに参加している」と回答していました。また、加算以外の感染対策ネットワーク(診療報酬の加算とは関係なく、自主的に作っている地域の感染症対策ネットワーク)を把握している保健所は37.1%で、前回(2018年度)調査の26.4%より増えていました。その他「AMR対策や院内感染対策で相談できる専門家がいる」と答えた保健所は84.6%にのぼり、こちらも前回の65.7%より増えていました。診療報酬改定や、コロナ禍で医療機関との連携が進んだことなどもあって、各地域や関係機関で感染症対策ネットワークの構築が進んでいることを感じます。

本事業班の今後の方向性についてお聞かせください。

近内氏 保健所の役割の原点は地域づくりです。専門家の協力を得ながら、地域の関係者をつないでネットワークを構築する、いわば「橋」のような役割を担っていると思います。保健所がこうした役割をしっかり果たせるよう、これまでの活動は引き続き行いながら、今後は熱心なICNなど属人的に始まったネットワーク活動がシステム化され継続している事例の調査や、地域で応用できる演習も含んだセミナーの開催なども検討しています。また、他の事業や委員会、関係機関と連携し、本事業を拡げていくことも必要だと考えています。

改めて、保健所の強みは何だと思いますか?

近内氏 保健所職員は必ずしも医療の専門家とは限りません。院内感染対策やAMR対策に関しては弱い部分もあります。しかし、さまざまな関係機関をつないで橋渡しをしていくのは、保健所が得意とするところです。そうした視点をもって活動できる人材を育成するためのヒントを提供していければと考えています。

豊田氏 保健所の大きな強みは公益性だと思います。例えば地域で研修を開催する場合、いち病院が呼びかけるより保健所が呼びかけた方が、医療機関や関係施設は参加しやすいということがあります。そういう意味では保健所は黒子の役割を果たします。ただ、いくら黒子といっても基本的な知識は必要です。そこをセミナーなどで学んだうえで黒子として動く。それが保健所に求められる大きな役割のひとつであり、コミットする意義でもあると考えています。

(このインタビューは、2025年8月20日にオンラインで行ったインタビューをもとに作成しました)

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